私たちが「ユーフォルビアの花」と認識しているものの多くは、実際には花そのものではなく、杯状花序と呼ばれるものや、それを取り巻く苞葉です。そうした独特な構造を持つユーフォルビアの花。この構造を理解することは、単なる知識にとどまらず、栽培や授粉などにも深く関わります。また、見た目の印象にとらわれず、その構造に目を向けることで、ユーフォルビアという植物の面白さは一層際立ってくるでしょう。
杯状花序
ユーフォルビア属の花は、一般的な意味での「花」とは大きく異なり、杯状花序(cyathium)と呼ばれる特殊な構造を持っています。
これは、カップ状の総苞(involucre)の内部に、1つの雌花(female floret)と複数の雄花(male floret)が配置されたものであり、さらにその外縁には通常5個の腺体(cyathial glands)が並び、全体として一見すると単一の花のように見えます。
しかしこの構造は、単純な花ではありません。 従来、杯状花序は「極限まで退化した雌花と雄花の集合体」、すなわち偽花として理解されてきましたが、 近年では、単なる花の集合ではなく、雌花と雄の部分花序が統合された“ハイブリッド構造”とする見方が提示されています。 すなわち杯状花序は、「花」と「花序」の中間的な性質を持つ、進化的に特異な構造となっているようです。

pedicel(花柄)と雄花の境界は比較的明瞭。
中心に見えるのが雌花。雄花が成熟すると雌花は能力を失っていく。

雄花の下に見える毛のある部分が、いわゆる花柄。このタイプは雄花をピンセットで摘み取り、別株の雌花にこすりつける。

雌花が先行して成熟。このあとにlobeの中から雄花が成熟し突き出してくる。腺体(glands)の形が特徴的。

杯状花序構造がよくわかる。カップ状の器から雄花、雌花が出てくる。雄花の影に隠れて見えにくいが、雌花も見える。雄花にはうっすらと境界が見え、下部はやや色味が薄くなっている。その部分がいわゆる花柄(pedicel)にあたる。
受粉戦略:自家受粉を避ける仕組み
栽培下では多くのユーフォルビアで自家受粉が成立しますが、自然環境ではほとんど観察されず、基本的には以下のような他家受粉が促進される仕組みが備わっています。
1. 時間差(雌性先熟)
雌花が先に成熟し、その後に雄花が花粉を放出する。 これにより、自家受粉の機会が大きく制限される(medusoid種などが代表的)。

雌花が先行して成熟。この段階では雄花は発達段階でcyathial lobeの中に待機している。
2. 物理的距離
花柄の伸長などにより、雌花と雄花の位置関係が変化し、自家受粉が起こりにくくなる(グロボーサなど)。
3. 雌雄異株
一部のグループでは雌株・雄株が分かれる。meleuphorbia列のユーフォルビア(オベサやバリダ、ポリゴナなど)はこのタイプ。
4. 集団的同調(開花フェーズの分化)
杯状花序は単独で完結するのではなく、複数の花序が時間差をもって機能する。
・中央の杯状花序:雄性期
・側方の杯状花序(初期):雌性期
・側方の杯状花序(後期):雄性期


腺体の形態
ユーフォルビアの杯状花序において特徴的な腺体は、送粉者を誘引する重要な要素となっています。
かつて独立属とされていたモナデニウム(現在はユーフォルビア属に統合)では、馬蹄形の大型の腺体が見られますが、これは本来4つの腺体が合着したものと考えられています。 このような形態変化は、視覚的・機能的な進化の一例といえるでしょう。
栽培における受粉の実際
柱頭が受粉可能な期間は、おおよそ5〜7日程度(経験則ですが)、一方で雄花は短命であるため、花粉が放出されているタイミングを逃さないことが重要となります。
花粉はピンセットや筆で採取し、雌花(柱頭)にやさしく擦り付けます。
花粉は必要に応じて冷蔵(冷凍)保存することも可能のようですが、私自身これといった方法が見つかっていません。
授粉させる時間帯は、多くの種で午前11時前後が最も適しているように思います。花の状態を確認して、授粉作業を行ってください。
雄花や花柄(pedicel ユーフォルビアでは形態的に花糸に似る部分 )が比較的長い種はピンセットで雄花を摘み取り、雌花(柱頭)に擦り付けます。オベサやバリダなど、摘み取るのが難しい種は筆や綿棒を使って花粉をとり、別株の柱頭に優しく擦り付けます。その際、筆や綿棒を軽く湿らせることで花粉を採取しやすくすることが出来ますが、花粉は濡れると受精能力を失うとされているため、望ましい方法ではないかもしれません(それでも結実しますが…)。
綿棒は黒いもの、筆は毛色が濃いものを使用すると花粉を付着したことが確認しやすく、作業がしやすいです。
自家受粉と他家受粉
ユーフォルビアでは、多くの種で自家受粉が可能(シイナの増加、発芽率の低下はみられます)ですが、安定した結実と遺伝的多様性を考えると、異なるクローンを2個体以上用意することが望ましいように思います。
接ぎ木で栽培され、同一クローンのみが流通するような種では自家授粉にチャレンジしてみてもよいかもしれません。
終わりに
長文で書き残してしまいました。ここまで読んでくださった方は、ユーフォルビアの花の構造や名称について把握することができたのではないでしょうか。花の写真も記事を読んだ前後で見え方が変化するはずです。
人工授粉の方法については文字として読むよりも、実践してみることが何よりも重要だと思います。
また、ここで書き記したことは趣味家としての経験則的な内容ですので、学問的な内容でないことはご容赦ください。誤りなど、ご指摘がありましたらご教授いただけますと幸いです。


この記事を執筆した真の理由は、仕事の都合、授粉作業に中々時間をさけないことがもどかしく、妻にこの作業を代行してもらおうという下心からです。ぜひ、お願いします。




コメントを残す