今、南アフリカで大きな問題となっていることがあります。
「現地球」と呼ばれる、植物をご存知でしょうか?
おそらく、このブログをご覧頂いているほとんどの方が知っていることでしょう。
- 密猟、盗掘された可能性が極めて高い野生由来の株
- オークションサイトを中心に、多くはベアルート(根無し)で販売されている
- モザンビークやマラウィ、タンザニア等の第三国を経由して入ってくる
熱心な趣味家であれば、こうした情報に触れたことがあるはずです。
ただ、この問題を論じるには、もう一歩踏み込んで問題の背景を知ることが大切だと思っています。
2019年のパンデミック以降、多くの人が自宅内での楽しみを求めたことで、多肉植物需要が急激に増加しました。
そこで注目されたのが、インテリアとしての野生株です。自生地の過酷な環境に耐え、適応してきた姿は、荒々しい迫力を備えており、発根さえすれば「栽培・育成」という時間を一気に飛び越えることが可能です。お金さえ出せば、誰もが容易に完成された株を手にすることができるようになったわけです。
ここで問題となったのが、それらの植物が一体どうやって日本へやってきたのかという点でした。
昨今、日本へ入ってくる南ア産多肉植物(野生株)の多くが違法に採取された密猟品だと言われています。
南アフリカで野生の植物を採取することは、多くの場合法律で制限されており、当然、無許可での採取は違法行為です。
南アフリカの自然保護法であるNational Environmental Management: Biodiversity Act, 2004(NEMBA)や、州レベルでの自然保護条例があるため、採取には許可が必要となりますが、今は商業目的で許可がおりることは基本的にないそうです。
SANBI(南アフリカ国立生物多様性研究所)で、この問題を担当している方へ連絡したところ、ユーファルビア属に関しては、2014年〜2024年の10年間で野生株が合法的に輸出されたのは、わずか1件(1株)のみとのことでした(CITESデータベース上に反映されていない可能性もあるが、商業目的での野生株の輸出許可は基本的にはおりないとのことです)。
こうして、地続きの第三国を経由させる密輸スキームが出来上がったことは想像に難くありません。
CITESのデータベースを見れば、モザンビークから大量の南ア産ユーフォルビアが栽培品として輸出されています。そして、その多くがネットオークションを中心に平然と流通しています。誰が見ても明らかな野生株です。それでも、これらが密猟された違法な苗だと言い切ることは不可能に近く、まさに”悪魔の証明”となります。
また、あまりにも普通に流通していることから、何も知らず手にとってしまう人も多いように思います。こうして、違法取引に加担してしまうことになってしまうのです。
野生株に対して、以下のような意見をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
- 「園芸の原点は野生採取だから、一概に否定できない」
- 「現地の貧しい人の収入源になっている」
- 「CITESや植物検疫証明書が発行されて輸入されているのだから問題ない」
「園芸の原点は野生採取だから…」これは過去の話です。過去の慣習が現在も正しいという、誤った前提に基づいていることに気がつく必要があります。倫理や価値観は時代に合わせて変わっていくものです。
「貧しい人の収入源…」というのも間違った認識だと思います。
こうした問題が大きくなるに連れ、調査も進んでいます。犯罪組織が現地の貧しい人を奴隷の様に扱い、搾取しているということも分かっており、現地の小さな子どもが盗掘に加担させられているといった報告もあります。
ひをみるより供給チェーンには、違法採取者(現地の貧しい人)、仲介者、輸出業者、組織者、シンジゲートのリーダー、資金提供者がいるとされています。現地の人が受け取る報酬は雀の涙でしょう。また逮捕されれば高額な罰金や禁固刑が言い渡されます。これが本当に現地の貧しい人のためになっているのでしょうか。一部の人に一時的な利益を与えることはあっても、長期的には地域全体に害をもたらすことは火を見るより明らかでしょう。
「CITESや検疫証明書が発行されている…」これは一見正当な理由に見えます。
CITESは国際取引を制限するものですが、種名や由来(野生or栽培)を偽って申請していればそれは合法ではないでしょう。
そもそも、野生株の採取自体が南アの国内法に抵触している可能性が極めて高いのです。
植物検疫証明書は、単なる「植物検疫」ですから、正当性の証明にはなり得ません。
南アで押収される植物は年々増加傾向にあり、2021年〜2023年の2年間で650種150万株が密猟の被害にあったと推計されています。この数字は押収された数ですから、まさに氷山の一角でしょう。
ユーファルビアでは、オベサやメロフォルミス、鉄甲丸といった国内でも数多く繁殖されている種でも、密猟された可能性が極めて高い苗が輸入されています。
鉄甲丸は2023年の調査では、野生下の残存個体数は1700株未満と報告されています。そんな危機的状況下であっても、CITES貿易データでは2024年にモザンビークから日本へ140株が輸入されています。モザンビークから輸入された株が、正真正銘の栽培品であったと祈るばかりです(2024年のネットオークションでは「鉄甲丸 現地株」として出品されていましたが…)。
この問題を複雑にしている要因のひとつは、栽培歴が長い人の多くが野生株を手にした経験があることでしょう。
かくいう私も、この問題を深く理解する前に、何度もベアルートの野生株を購入しています。私自身も全くもって清廉潔白ではないということです。ただ、こうした問題を事前に知り、理解していれば手を出すことはなかったと思います。
このセンシティブともいえる問題を発信しようと思ったのは、まずは現状を知り、皆で共有したかったからです。野生株を手にする人達を批判することは簡単です。ただ、それでは問題の解決には近づかないような気がしたのです。
希少種と呼ばれる種も多く輸入されています。私も喉から手が出るほどに欲しい種が数多く溢れています。それでも、誰かを搾取することで成り立つような趣味はあってはならないはずです。
この長文、駄文に最後までお付き合い頂いた方には、そうした株がどんなに安値であっても静観してほしいと願っています。市場から静かにフェードアウトさせていくことが、現実的な道筋ではないでしょうか。
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