サボテン・多肉植物への関心が高まるなかで、近年はこれまで以上に希少種や珍種に注目が集まるようになってきました。
ユーフォルビアで言えば、フィリフローラ、ムルチラモサ、リグノーサ、スピネアなど、かつては一部の愛好家にしか名前を知られていなかったような種にまで光が当たるようになったことには、正直なところ驚かされます。こうした流れの背景には、SNSの普及も大きく関わっているのでしょう。
珍しい植物が注目され、その魅力が共有されることは素晴らしいことです。しかしその一方で、ある種の違和感も覚えるようになりました。
それは、こうした流れのなかで、「普及種」と呼ばれる植物たちが、いつの間にか多くの人から見放されてしまったように感じたことです。
ありふれていて、どこでも手に入る。そんな理由で、普及種は最初から評価の外に置かれてしまってはいないでしょうか。皮肉なことに、最近ではホームセンターで「かつての希少種たち」が台頭し、普及種が追いやられていることも少なくありません。


希少種の多くは、一時的に流通することはあっても、長期的に普及種になる例は多くありません。栽培困難種とまでは言わなくとも、栽培に一癖も二癖もある種が多いからです。栽培の醍醐味を感じる前に、挫折してしまう人もいます。ましてや、今のホームセンターの売り場で管理できるようなものでもありません。
普及種とはなにか
一般に「普及種」という言葉は、よく流通していて価格が安く、どこでも手に入る植物、という意味で使われがちです。しかし、ここで言いたい普及種は、そうした市場的な分類とは少し違います。
私が考える普及種とは、「長い時間をかけて栽培され、繰り返し選ばれ続けてきた植物」です。
流行によって一時的に増えたものではなく、環境の違い、栽培者の違い、時代の変化をくぐり抜けながら、それでも作られ続け、育てられ続けてきた。
つまり普及種とは、続けることができたから残った存在とも言えます。
難物と呼ばれる種を3年維持することは出来ても、10年維持できる栽培家は一握りでしょう。それほどに安定して栽培していくことは難しいものです。
普及種は形や性質がよく知られている分、新しさや驚きに欠けるように見えることもあります。しかしそれは、価値が低いという意味ではありません。繰り返し観察され、語り尽くされてきた結果、派手な言葉を失ってしまっただけなのだと思います。
普及種は、植物を理解するための基準点でもあります。成長のリズム、花の時期、環境への反応。そうした基本的な振る舞いを知っているからこそ、そこから外れた個性や違和感にも気づくことができます。
珍種や希少種が魅力的に見えるのは、多くの場合、こうした基準が無意識のうちに共有されているからです。普及種を知らずに希少種を語ることはできない、というのは言い過ぎかもしれません。それでも、その魅力を十分に味わうことは、きっと難しくなるはずです。
普及種は時間と経験を引き受けてきた結果として、いまそこにある植物なのだと思います。


私のサボテン栽培のきっかけは、ノトカクタスの種子を頂いたことでした。普及種のひとつで、ホームセンターでも売られているようなサボテンです。実はそれ以前に、難物のエリオシケを栽培し、見事に挫折してしまったことがありました。紅冠丸がなければ、今もサボテンを育てていなかったかもしれません。
近年、多肉植物を取り巻く環境は大きく変わりました。「珍しいもの」を手に入れること自体は、かつてよりずっと容易になっています。
その一方で、この趣味が消費のサイクルに巻き込まれているようにも感じます。次々と新しい希少種が現れ、話題になり、やがて別のものへと移っていく。
普及種は、そうした流れの外側で、この趣味の土台を支えてきました。誰かの最初の一鉢になり、誰かの最初の失敗や成功を引き受け、気づけば長く棚に残り続けている。その積み重ねが、この趣味に深みを与えてきたのだと思います。
棚を普及種で埋め尽くす必要はありません。けれど、もし一度も栽培したことがなければ、手にとって、その魅力を時間をかけて味わってみてはいかがでしょうか。そこには、流行では測れない、この趣味の醍醐味が待っているはずです。




ユーフォルビア属の花は、一般的な意味での「花」とは大きく異なり、杯状花序(cyathium)と呼ばれる特殊な構造を持っています。
これは、カップ状の総苞(involucre)の内部に、1つの雌花(female floret)と複数の雄花(male floret)が配置されたものであり、さらにその外縁には通常5個の腺体(cyathial glands)が並び、全体として一見すると単一の花のように見えます。
しかしこの構造は、単純な花ではありません。 従来、杯状花序は「極限まで退化した雌花と雄花の集合体」、すなわち偽花として理解されてきましたが、 近年では、単なる花の集合ではなく、雌花と雄の部分花序が統合された“ハイブリッド構造”とする見方が提示されています。 すなわち杯状花序は、「花」と「花序」の中間的な性質を持つ、進化的に特異な構造となっているようです。




栽培下では多くのユーフォルビアで自家受粉が成立しますが、自然環境ではほとんど観察されず、基本的には以下のような他家受粉が促進される仕組みが備わっています。
1. 時間差(雌性先熟)
雌花が先に成熟し、その後に雄花が花粉を放出する。 これにより、自家受粉の機会が大きく制限される(medusoid種などが代表的)。

2. 物理的距離
花柄の伸長などにより、雌花と雄花の位置関係が変化し、自家受粉が起こりにくくなる(グロボーサなど)。
3. 雌雄異株
一部のグループでは雌株・雄株が分かれる。meleuphorbia列のユーフォルビア(オベサやバリダ、ポリゴナなど)はこのタイプ。
4. 集団的同調(開花フェーズの分化)
杯状花序は単独で完結するのではなく、複数の花序が時間差をもって機能する。
・中央の杯状花序:雄性期
・側方の杯状花序(初期):雌性期
・側方の杯状花序(後期):雄性期


ユーフォルビアの杯状花序において特徴的な腺体は、送粉者を誘引する重要な要素となっています。
かつて独立属とされていたモナデニウム(現在はユーフォルビア属に統合)では、馬蹄形の大型の腺体が見られますが、これは本来4つの腺体が合着したものと考えられています。 このような形態変化は、視覚的・機能的な進化の一例といえるでしょう。
栽培における受粉の実際 柱頭が受粉可能な期間は、おおよそ5〜7日程度(経験則ですが)、一方で雄花は短命であるため、花粉が放出されているタイミングを逃さないことが重要となります。
花粉はピンセットや筆で採取し、雌花(柱頭)にやさしく擦り付けます。
花粉は必要に応じて冷蔵(冷凍)保存することも可能のようですが、私自身これといった方法が見つかっていません。
授粉させる時間帯は、多くの種で午前11時前後が最も適しているように思います。花の状態を確認して、授粉作業を行ってください。
雄花や花柄(pedicel ユーフォルビアでは形態的に花糸に似る部分 )が比較的長い種はピンセットで雄花を摘み取り、雌花(柱頭)に擦り付けます。オベサやバリダなど、摘み取るのが難しい種は筆や綿棒を使って花粉をとり、別株の柱頭に優しく擦り付けます。その際、筆や綿棒を軽く湿らせることで花粉を採取しやすくすることが出来ますが、花粉は濡れると受精能力を失うとされているため、望ましい方法ではないかもしれません(それでも結実しますが…)。
綿棒は黒いもの、筆は毛色が濃いものを使用すると花粉を付着したことが確認しやすく、作業がしやすいです。
ユーフォルビアでは、多くの種で自家受粉が可能(シイナの増加、発芽率の低下はみられます)ですが、安定した結実と遺伝的多様性を考えると、異なるクローンを2個体以上用意することが望ましいように思います。
接ぎ木で栽培され、同一クローンのみが流通するような種では自家授粉にチャレンジしてみてもよいかもしれません。
長文で書き残してしまいました。ここまで読んでくださった方は、ユーフォルビアの花の構造や名称について把握することができたのではないでしょうか。花の写真も記事を読んだ前後で見え方が変化するはずです。
人工授粉の方法については文字として読むよりも、実践してみることが何よりも重要だと思います。
また、ここで書き記したことは趣味家としての経験則的な内容ですので、学問的な内容でないことはご容赦ください。誤りなど、ご指摘がありましたらご教授いただけますと幸いです。


この記事を執筆した真の理由は、仕事の都合、授粉作業に中々時間をさけないことがもどかしく、妻にこの作業を代行してもらおうという下心からです。ぜひ、お願いします。




種小名 piscidermis は、ラテン語の piscis(魚)と dermis(皮膚)を組み合わせたもので、その名の通り、本種の外見的特徴を端的に表しています。
形態的特徴
本種は基本的に単幹で、若い個体では球形、成長に伴い円筒形へと変化します。
ごく小型のユーフォルビアとして知られていますが、最大で高さ約12cm、直径7cm程度に達するとされており、一般的なイメージよりも大きく成長するようです。
ピスキデルミス最大の特徴は、茎表面を覆う白〜灰色の鱗状の突起にあります。
これは葉痕が変化した結節が平坦な鱗片状となり、螺旋状に重なり合ったものです。このような構造はユーフォルビア属の中でも本種のみに見られる、極めて特異な形質であり、他種と混同されることはほとんどありません。
この鱗状構造は、強烈な直射日光を反射して茎本体の温度上昇を抑える役割を担っていると考えられています。また、砂や小石に擬態することで草食動物の目を欺き、食害を回避する効果があるとも言われています。


分布と自生地
ピスキデルミスは、エチオピア東部のオガデン地方からソマリアにかけての、非常に限定された地域のみに自生しています。
タイプ標本は、Kelafo の北およそ10kmに位置する丘で採集されました。Google Maps の航空写真を見ると、赤褐色の土壌と白い石灰岩が露出した大地が広がっており、点在する黒い影はアカシアなどの低木と考えられます。こうした低木の影や岩の隙間に、ひっそりと生息しているのでしょう。

栽培について
本種は難物として知られ、多くの場合は接木によって維持されています。
成長は極めて遅く、目に見える変化はほとんど感じられません。また、根の再生力が弱い点も特徴で、頻繁な植え替えには向きません。可能な限り上質な培養土を用い、植え替え回数を抑えることが重要です。
自生地が石灰岩質土壌に限定されていることから、アルカリ性でカルシウム分の豊富な環境を好む可能性があります。通常の培養土でも育成は可能ですが、カキ殻を混ぜ込んだり、リキダスを使用するのも一案でしょう。
自生地では冬季でも平均最低気温が12℃を下回ることはほとんどなく、耐寒性は高くありません。栽培下では最低気温8℃程度を安全ラインと考えるのが無難です。
また、ピスキデルミスは栽培環境下で、二又分枝(ふたまたぶんし)や帯化(たいか)といった成長異常を起こしやすいことが指摘されています。小型でありながら、形態的変異に富む点も本種の興味深い側面です。


本種が記載され、鮮烈なデビューを飾った直後、自生地オガデン地方を舞台に「オガデン戦争」と呼ばれる大規模な紛争が勃発しました。その影響で、発見直後から約30年にわたり、誰も現地調査を行えない空白の時代が生まれます。
2000年代以降、地域の治安が比較的安定したことで、ようやく専門家やプラントハンターが再訪できるようになり、ピスキデルミスも再び姿を現すことになりました。
空白の30年間は非常に希少であり、マニア垂涎の種であったようです。現在では接木された株や自根の株が流通するようになっていますが、それでも流通量は多くありません。特に自根株は発根の難易度が高く、流通量は限られています。
自家受粉可能で、実生繁殖もできますが成長が極めて遅く、実生苗が流通することはほとんどありません。チャレンジングな種ですが、場所を取ることもありませんので、繁殖に挑戦してみるのも面白いでしょう。
ただ、この一年ほどで、その考え方を大きく見直すきっかけがありました。
それは、某インターネットオークションなどを賑わせている、中国からやってきた大量の希少種たちの存在です。
どういった経路を経て日本に流通しているのかは分かりません。
しかし、希少であるはずの植物が大量に出品され、驚くほどの価格で次々と落札されていく光景を目にするようになりました。
そこでは、一株一株が持つはずの「背景」や「文脈」が語られることはなく、ただ「商品」として消費されていきます。
その植物がもつ「背景」や「文脈」は、価格の背後から完全に抜け落ちてしまっているようです。
ハオルチアやアガベの素晴らしい交配種や選抜種が、メリクロン苗として大量に流通したことは記憶に新しいですが、これらは需要を大きく超える苗を無責任に流通させたことで、「価格」だけでなく、「価値」すらも崩壊させてしまいました。
この問題は他人事ではありません。
私自身もまた、植物を販売することがあるからです。
イベントのたびに、「この価格は高すぎないだろうか」「安くしすぎてはいないだろうか」と迷います。
価格を下げれば売れやすくなる――そのことは、十分に理解しています。
それでもなお、安易な値下げを選びたくないのは、それが、これまで自分が植物と向き合ってきた姿勢を否定することになると感じるからです。
価格に、ストーリーや背景、そして自分なりの思想をのせることで、植物を安易に消費される存在にしたくない。
それは、購入者に対する姿勢であると同時に、自分自身への態度でもあります。
私は、趣味家として植物を扱い、販売しますが、それはビジネスではありません。
だからこそ、値付けの基準は「売れるかどうか」ではなく、
その植物を世に出すことに対する「責任」であるべきだと考えています。
植物の価格に正解はありません。
しかし、価格を見るとき、その背後にある価値まで想像することはできるはずです。
このコラムが、植物の値段を目にしたとき、
「これはどんな植物なのだろう」「どんな人の手を経てきたのだろう」と、少し立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。
最初の1株は、1912年にSelmar Schonland博士によってクリップラートにて採集され、研究のためキュー植物園に送られました。1915年にN. E. Brownによって正式にEuphorbia breviramaと命名されています。その後、90年以上経った最近まで再発見されていませんでした。
1991年、Euphorbia breviramaの模式地の近くで、非常によく似た小型のユーフォルビアが発見されましたが、記載には部分的にしか一致せず、最終的にはEuphorbia astrophoraとして記載されています(この個体にはGM204というナンバーがつけられています)。
2006年にクリップラート近郊で遂にEuphorbia breviramaとしか言いようのないものが再発見されます。
2010年には西へ130km離れた場所で、典型的なEuphorbia breviramaの特徴の90%以上に一致する個体群が発見されています。

矮性の多肉植物。棘はないが、枝には乾燥した花柄の残骸が残る。主茎は太い主根の延長で太さは最大で5.5cm。上部は平らで、小さく窪んだ頂部がある。
枝には結節があり、先細りの円筒形。長さは最大で35mm(大部分はこれよりも短い)、円筒形の部分は太さ最大8mm(基部は最大12mm)。葉は長さ1mm、卵形で鋭く、すぐに落葉する。
花序は枝の先端近くから腋生し、長さ3-6mmの直立して広がる半持続性の花柄。サイアチウムは両性花(雄花のみの場合もある)で、幅4mm、深さ4mmの鐘形の鈍い赤みがかった色の総苞を持つ。5つの腺と5つの丸い裂片。上から見ると円形で肉質。中央にやや深い空洞があり、緑色。
クリップラートの南数キロの場所ではEuphorbia gorgonisに似た小型のmedusoid種が古くから発見されています。
現在、流通しているものは、クリップラート近郊のmedusoid種という理由だけで、過去30年以上にわたりEuphorbia brevirama(ES12576)として栽培され流通していたものです。これらも花の形態が一様ではなく、中には十分な管理のもとになく、交雑してしまったものがあるのかもしれません。
いずれにせよ、真のEuphorbia breviramaではないようです。未だ、これというものには出会っていません。手にしたいような、いつまでも希少種であってほしいような複雑な想いです。
※ESという番号はフィールドナンバーではなく、エキゾチカのカタログ番号です。
Meleuphorbia列のユーフォルビアは南アフリカ、レソト、スワジランドに分布しますが、多くは南アフリカ南部〜南東部に集中しています。例外的に E. pulvinata のみが広い分布域を持ちます。
E. polygonaの様に高さ2mに達する低木から、E. susannaeの様に地下に潜るもの、E. obesaの様な球状のものまで形態は様々です。




上述の14種のうち、以下の種はE. heptagona複合体という概念で扱われる提案があります
“種の複合体”とは、外見的に違って見えても、その境界が曖昧で連続性を持ち、種を明確に分類することが難しい一群を指します。
これは、分類の揺らぎや分化過程そのものを観察できる興味深い対象であり、ロカリティ付きの株を比較して観察することで、その連続性・多様性を感じることができるでしょう。
以下の写真はiNaturalistから引用したもので、分布域の南限と北限に自生するE.feroxを比較したもので、変異の大きさを知ることができます。







Meleuphorbia列のユーフォルビアは共通して種子にわずかな粘性を持ちます。
これは偶然ではなく、生態学的な戦略である可能性があります。
これらの特徴が、過酷な半乾燥環境で効率的な世代更新を可能にしているのでしょう。
この14種はどれも性質が強く、栽培や繁殖が容易であることから、古くより入門種として普及してきました。
しかし近年のユーフォルビア人気の中で、「普及種」という言葉がどこかネガティブな響きを帯び、敬遠される傾向が生まれてきています。
SNSでは「目新しさ」「希少性」が評価されやすく、普及種は他者との差別化が難しいためかもしれません。
しかし、普及種の栽培には他者ではなく植物そのものと向き合う喜びがあります。
値段や希少性ではなく、形態や成長を観察しながら深く理解していく——
これは派手ではありませんが、植物を育てる醍醐味そのものです。






エチオピア原産の珍種ユーフォルビアのひとつ、ユーフォルビア・ギムノカリキオイデスは、その種小名が示す通り、サボテン属のギムノカリキウム(Gymnocalycium)を思わせる姿をしています。
『ユーフォルビア・ジャーナル』では「近年の発見の中でもっとも興奮を呼ぶ種のひとつ」として紹介されたことでも知られます。

本種は1893年4月7日、イタリアの博物学者 Eugenio Ruspoli と植物収集家 Domenico Riva によって、エチオピア南部のジアコルサ(Giacorsa)で発見されました。
その後、1982年5月11日にGerhard Frankがジアコルサから北へ約55kmの地点で再発見し、1984年にMichael George Gilbert博士とSusan Carter博士によって正式に命名・記載されました。
さらに1994年、植物学者 Vítězslav Vlk 氏と Robert Lizler 氏が、原産地の南に位置するネゲレ州の Welenso Ranch と呼ばれる谷で個体群を確認しています。
Vlk氏はその報告の中で、この谷の生物多様性を「信じがたいほど豊か」と表現しており、
7種のCommiphora、Boswellia neglecta、Euphorbia aff. actinoclada、E. glochidiata、E. brunellii、E. longetuberculosa、Dorstenia barnimiana、D. crispa、Adenia aculeata、Pelargonium、Momordicaなど多様な植物群に加え、クーズー、ハイエナ、ジャッカル、ヤマアラシ、数十種の鳥類、そして数百種におよぶ昆虫類が確認されたと述べています。
この調査では、数百本の成木と多くの若い苗が観察されましたが、その数年後には本種は壊滅的な被害を受けたと報告されています。
さらに2022年の調査では「徹底的に探索したが、1本の苗すら確認できなかった」とされ、
現在、Euphorbia gymnocalycioides の自生個体群は一か所しか知られておらず、野生下では絶滅の危機に瀕している状況です。


栽培については気難しい部分もなく育てやすいユーフォルビアのひとつです。かつて栽培下では希少で、接木にて慎重に維持されてきましたが、現在では丈夫な種ということが知られてきます。
肥大した茎にたっぷりと水分を蓄えることが出来ますので、水やりは控えめに。
エチオピア原産ですが、耐寒性も高く5℃程度であれば問題ありません。
ハダニと思われる被害を受けることがあるため、病害虫のための対策は必須です。
初夏〜秋までよく開花してくれるため、種子を得ることも難しくありません。
ただし種子は非常に小さく、発芽後の成長速度も遅鈍です。
それでも本種は形態的な差が大きく、育種交配が唸るユーフォルビアのひとつになるのではないかと密かに期待しています。実生する価値が大いにあるユーフォルビアでしょう。
大型medusoid種のひとつであるEuphorbia fuscaです。
fuscaという学名は、特徴的な暗褐色の腺体に由来しています。
園芸上はある程度区別がつきますのでE. fuscaとして紹介しますが、現在は分類学上E. crassipesのシノニムとして扱われています。
E. fuscaのみならず、E. baliolaやE. hopetownensis、E.inornataなども現在はE. crassipesのシノニムとなっています。
Bruyns氏が形態差よりも、生態的な連続性を重視するランパー(統合派)であるためでしょうか。
それぞれに形態差があるため、園芸的には分けて管理しておいてもよいのではないかと思います。


主茎は最大で20cmと大型で、中には30cmに達する個体群(Hopetown地区)もあるようです。主茎はほぼ球形で地表に露出する部分のほぼ全体から多数の枝を密に出しますが、頂部だけは例外で枝を出しません。
シノニムとされた種についての形態的差などは以下の表を参照ください。
| E. fusca | E. crassipes | E. baliola | E. hopetownensis | E. inornata | |
| 腺体の色や花 | 暗褐色の腺体で横長の長方形。 総苞は比較的に浅い。外縁に短い針状突起を多数持つ。 花梗が脱落する | 緑色の腺体。 E.fuscaと比較し、より深い総苞 | 褐色〜暗褐色 E.crassipesと比較し、雄花の花柄が長く、その毛もより長い。 | ピンク〜紫 5つの歯状突起 5-7mmの非常に短い花柄 | 腺体の上面がオリーブグリーン、下面が赤みを帯びる。 腺体の形、総苞に白い毛をもつ。E.fuscaと比較し腺体の針状突起の数が少ない。花柄の毛は明瞭な羊毛状。 |
| 茎・枝 | 頂部には枝がない。 ほぼ球形の主茎。 | 頂部には枝がない。 E.fuscaと比較し円柱状の茎、より太い枝。 | 頂部全体を覆うように枝を出す。 枝が細い。 | 比較的に太い枝を持つ。 ほぼ球形の主茎。 | E.crassipesに概ね一致。 E.fuscaの様に |
| 備考 | Marlothの原記載に腺体についての言及がなかった。 | E.crassipesの多くの個体群では花梗が脱落する個体、しない個体の両方がある。 | タイプ標本が採集された地域付近の個体はE.crassipesとほぼ同じ形態であった。 | 幅4.5cmの小さな株から記載された。小さな図と記載された特徴はE.crassipesの特徴と一致。 | E.fusca、E.hopetownensisとはその関連性が指摘されてきた。 |
現在は全てE. crassipesのシノニムとなっていると書き記しましたが、当然これに異議を唱える人も多くいます。
Marx氏はBruyns氏の論文に対しEuphorbia WORLDの記事内で「詳細な知識の欠如」と批判しています。
Marx氏はE. crassipesについてはE. deceptaと近く、E. deceptaをE. crassipesの変種として扱うべきとしています。
個人的にもそちらの方がしっくりくる気がしますが、どうでしょうか。
栽培について
栽培は間違いなく容易な部類のユーフォルビアです。
耐寒性は高く、私のハウスでは冬季最低気温5℃程度ですが、全く問題ありません。自生地の気候を鑑みれば、断水に近い管理をし、霜に当てなければ0℃程度までは問題なく耐えてくれるのではないかと思います。
本種は昼夜の寒暖差を特に好むようで、熱帯夜が続く場合は日が沈んだ時間にミストをかけて植物体の温度を下げてあげるなどの工夫をするとよいでしょう。


栽培困難種とされるのは、それが野生株だからでしょう。
野生株、それも本種の最大サイズに近い標本クラスのものが多く流通しています。
こうした野生株はたとえ発根させられたとしても、維持管理は困難で徐々に消耗し枯死すると言われています。倫理面からも栽培面からもリスクが高いものです。
CITESのトレード記録を確認すると、モザンビークから日本へE. fuscaの”人工繁殖個体”が大量に入ってきているようです。
これは本当に人工的に繁殖されたものでしょうか?
モザンビークで数百を超える標本サイズのE. fuscaを栽培しているとはどうしても思えませんが…
大型のmedusoid種であるユーフォルビア・エスクレンタです。
閻魔キリンという和名はその堂々たる姿から連想されたものでしょう。
esculentaはラテン語で「食用」を意味するものです。焼いて食べたという話もありますが一般的ではなく、干ばつ時の家畜の飼料として利用できることが由来かもしれません。
1865年のウイテンハーゲ・タイムズには「11ヶ月も雨が降らず、家畜の損失は恐ろしいほどです…。現在私は牛にVingerpolや矮性ユーフォルビアを与えています。農家がこれを栽培し、乾期のために備えておかないことは非常に残念です」と書かれています。
このことからも、家畜の飼料として使用されていたことがうかがえます。
“Vingerpol”はアフリカーンス語で「指の房」を意味し、E.esculentaのことを指しています。


塊茎は5-20cm、株全体の幅は15-50(100)cmに達します。E.esculentaは塊茎が地表から最大30cmも突き出して生育することもあり、その大きな体格と低い茂みの中で生育する習性から、自生地でも目立つ存在となっているようです。
E.huttoniae、E.inermis、E.colliculina、E.fortuitaによく似た外観を持ちますが、これらの種は地表から突き出て生育することは基本的になくE.esculentaの特徴となっています。
また本種は白く綿毛をまとった様な花が特徴的です。開花さえすれば他種と混同してしまうようなことは少ないでしょう。
東ケープ州に広く分布しており、生息地では一般的にみられるようです。

栽培についてはmedusoid種としては容易な部類です。
自生地は特に乾燥した地域にあり、実際、乾燥にとても強い種です。
水やりはメリハリを大きくつけることをおすすめします。水が多過ぎると枝が徒長し、先細り見た目を大きく損ないます。
自生地では枝の長さが20cmを超えないとされていますので、徒長しているかどうか一つの目安になります。
耐寒性は高く、氷点下になったり、霜に当たらなければ越冬も問題ありません(当然ですが、冬前に根をしっかり張らせ健康な状態であることが前提です)。
あくまでも肌感覚としてですが、氷点下でもいけるような…。
花はよく咲く年もあれば、全く開花しない年もあります。灌水方法か、寒暖差か…何れにせよ開花には何か条件がありそうです。
花は芳香性で甘い香りがありますが、私の手持ちの株は書籍に記載されていたほど強い香りはありませんでした。




流通量も増えてきて入手がしやすくなってきました。
野生株が流通してしまうこともありますが、そうした苗は日本の環境に適応できずに枯死してしまうことが多いようです。
野生株の保護、栽培のし易さの観点からも実生株の購入をおすすめします。
マダガスカル産ユーフォルビアの中でも、最も美しい種のひとつとされるユーフォルビア・トゥレアレンシスです。
その種小名はタイプ産地であるTuléar(現Toliara)に由来しています。

本種はToliara周辺の石灰岩台地「La Table」と呼ばれるテーブル状の地形に自生し、その分布はきわめて限られています。
成長は極めて遅いものの、栽培は容易で癖のない種です。入門種の次のステップアップとしても最適なように思います。
冬季に断水すれば、5℃程度の低温にも耐えるとされています。
開花期間も長く、種子を得るのも難しくありません。ただし、種子は非常に小さく、紛失しやすいため取り扱いには注意が必要です。
結実後にネットをかけたり、セロハンテープで種子の飛散を防止する方法が一般的ですが、私はよく観察し飛散前に手で摘み取るようにしています。初めこそ種子が四方八方に飛散してしまいますが、慣れればこうしたミスもほとんどなくなります。


自生地は石灰岩や露岩の多い台地で、こうした地形が断崖や割れ目、浅い土壌といった環境をつくります。
石灰岩の割れ目が独特の微気候を生み、その環境に特化して適応した結果、きわめて高い固有性と狭い分布域を持つようになったと考えられます。
トゥレアレンシスが石灰岩質の低木地帯に生息していることを考慮すると、高カルシウム、乾燥、アルカリ性、浅い土壌という特殊な環境にあることが推測できます。その点を念頭に置くと、やはり水はけがよい用土が適していると言えるでしょう。用土はアルカリ性である必要はなく、通常の多肉植物用の培養土で十分です。

トゥレアレンシスはCITES附属書I類として扱われ、商業目的の国際取引は原則禁止とされています。
かつては流通しているものの9割が違法採取されたものと言われていた時期もありましたが、幸いにも現在では人工繁殖されたものが多く流通するようになっています。
それでも国内では野生株と思しきものが大量に流通しており、違法採取されたものと知らずに手にとってしまう方が多いのもまた事実です。
CITES附属書I類という区分は、植物ではあまり馴染みがないかもしれませんが、動物ではジャイアントパンダやゴリラなどが該当します。
それらと同等の保護対象が、インターネットオークションやショップで普通に売られている現状は、やはり異常といえるでしょう。
本種の魅力的な草姿から、こうしたことを知らずに手にとってしまった方も多いでしょう(私もその一人です)。
いまだに現地球が流通する理由は、本種の成長の遅さに要因があるようです。
おそらくマダガスカルユーフォの中で最も成長が遅いのが本種です。国内では実生10年でも足らず、現地球の迫力に到達するのには20年ほど要するのではないかと思います。
しかし、この「成長の遅さ」はデメリットではなく、本種の素晴らしい魅力のひとつです。
じっくりと付き合うことが出来ますし、手に負えなくなるサイズになってしまうこともないでしょう。
栽培スペースが限られる方にもおすすめできる、扱いやすく奥深いユーフォルビアのひとつです。

